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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)518号 判決 1960年9月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上野開治の上告理由第一点について。

建物所有のための土地賃貸借においては、賃借人が何人なるかにより使用収益の方法に必ずしも大きな差異を生ずるものでないということは、一般論として所論のとおりである。しかし、この故に、建物その他地上物件の譲渡に伴い敷地賃借権の譲渡をすることは、原則として背信行為にならないと論断することはできない。けだし、転貸又は賃借権の譲渡が背信行為に当らないと認むべき特段の事情のあるときには、民法六一二条の解除はできないものと解すべきことは当裁判所の判例とするところであるが(昭和二五年(オ)第一四〇号、同二八年九月二五日第二小法廷判決、最高裁民事判例集七巻九七九頁等)、使用収益の方法に大差なければ背信行為に当らないと解することは許されないからである。右判例が「特段の事情」を必要としているのは、使用収益の方法に大差あると否とを問わず、およそ転貸又は貸借権譲渡は一応背信性あるが故に民法六一二条の解除原因になつているのであり、それが已むを得ない事情にいでた場合或は少くとも社会通念上恕すべき事情ありと認められる場合にはじめて背信性が失われると解しているからにほかならない。所論は、以上と異る独自の見解であつて採用し難い。(なお、所論は借地権譲渡につき黙認があるとも主張するが、これは単なる事実認定の非難にすぎない。)

同第二点について。

原判示の事実関係のもとでは、本件明渡請求を以て権利乱用と認め難いとした原審の判断は正当であつて、論旨は理由がない。

同第三点について。

借地法一〇条による建物等買取請求権の行使によりはじめて敷地賃貸借は目的を失つて消滅するものと解すべきであるから(大審院判決昭和九年(オ)第四六二号、同年一〇月一八日、民集一三巻一九三二頁)、右行使以前の期間については貸主は特段の事情のないかぎり賃料請求権を失うものではないこと所論のとおりである。しかし、単に賃料請求権を有するというだけで、その間賃料相当の損害を生じないとはいい難い。貸主が現に右賃料の支払を受けた場合は格別、然らざるかぎり、無断転借人(又は譲受人)に対し賃料相当の損害金を請求するを妨げないものと解すべきである。(大審院判決昭和六年(オ)第一四六二号、同七年一月二六日、民集一一巻一六九頁、同昭和一三年(オ)第一七八〇号、同一四年八月二四日、民集一八巻八七七頁、各参照。)

なお、論旨は右相当賃料は、借地人たる訴外西福モータースの支払うべき坪当り月金二円と認むべき旨主張するけれども、原判示昭和二五年四月一日の本件借地権譲渡の後である同年七月一一日以降地代家賃統制令の改正により本件土地は賃料の統制を受けざるに至つたこと原判示の如くなる以上、その後の相当賃料を判定するに当り原審が右約定賃料に拠らず原判示の証拠(鑑定)によつてこれを原判示の如く認定したのはなんら違法ではなく、この点の論旨も理由がない。

同第四点について。

建物買取請求権を行使した後は、買取代金の支払あるまで右建物の引渡を拒むことができるけれども、右建物の占有によりその敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得として敷地の賃料相当額を返還すべき義務あることは、大審院の判例とするところであり(昭和一〇年(オ)第二六七〇号、同一一年五月二六日、民集一五巻九九八頁)、いまこれを変更する要を見ない。されば、これと相容れない所論は採用し得ない。

その余の論旨は、原審が適法にした本件建物の時価及び相当賃料の認定を非難するに帰着するものであつて、これまた採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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